2011年1月12日水曜日

新しい歴史を刻むギター


カニブログの読者の皆さんはもうご存知の通り、5月1日にマドリードの王立劇場で特別なコンサートがあります。ベルリンフィルとアランフェス協奏曲を演奏するのです。このコンサートは、ベルリンフィルが毎年行っている「ヨーッロッパコンサート」と呼ばれるシリーズで、創立記念日である5月1日にヨーロッパのいずれかの都市で開催されます。2011年はたまたまスペインが選ばれ、由緒ある王立劇場が会場に選ばれたというわけです。コンサートは、世界27カ国で同時生中継されます。私にとっても責任重大なコンサートなのです。

写真:ビセンテ・カリージョの新しい2艇のギターを試しているところ

この大切なコンサートの為に一役買って出てくれたのが、ギター製作者で2010年の国家手工芸賞を受賞したばかりのビセンテ・カリージョ。私はフラメンコギタリストですから、演奏方法はフラメンコ。しかし演奏する作品はクラシック。ということで、今回はその両方の特製を兼ね合わせた、特製のクラシック・フラメンコ・ギターを私の手や指や演奏方法に合わせて、オーダーメイドしてくれました。言ってみれば、ハイブリッド・ギターです。


このギターのこれまでの製作プロセスはこちら

「ギター物語」のビデオはこちら


ビセンテも私も、仕上がりには大満足。これから数ヶ月間、毎日このギターを弾き、ギターを慣らす必要があります。楽器としてのギターの最高のポテンシャルを引き出すには、あり程度の期間引き続けることが何よりも大事なのです。新車も少しならした方が調子がいいのと同じ。ありったけの愛情を注ぎ込みます。

それと同時に、この「馴らし」の期間は、ギタリストとギターがお互いを知り合うのにも欠かせない期間です。同じギター製作者が、同じ素材を用いて、同じモデルのギターを同時に作ったとしても、出来上がったギターには人間と同じように「個性」があるのです。


Foto: Reportaje del periódico El Mundo “El Dominical”

写真:『エル・ムンド』紙の取材


ギターを受取に行ったこの日、ちょうど『エル・ムンド』紙の取材があり、ビセンテ・カリージョの工房でのギター製作の様子を詳しくリポートしていました。ハビエル(記者)とリカルド(写真家)は、ふたりともとても感じのいい青年で、私にもギタリストは、どんなギターを弾きたいのか、どんな木材で作られたギターが良いのか、等々色々な質問を受けました。

ギターに関する取材だけでなく、写真の世界やスペインの文化について、また日本や中国のような遠く離れた国とスペインの同質性、異質性など、昼食を共にしながら興味深い話題が尽きませんでした。


写真:マリア・ルイサ。ビセンテ・カリージョの工房の職人


写真に写っている素敵な女性は、ビセンテ・カリージョの工房で働く職人さんです。彼女はギターの竿の金属部分を取り付ける作業をしていました。これからは、ギターを弾く度に彼女や、その他の職人さんの一生懸命な仕事ぶりを思い出すような気がしていました。


写真:ビセンテ・カリージョ、ハビエル・カバジェロ(エル・ムンド記者)、リカルド・カセス(写真家)


取材の休憩時間に、皆で記念撮影をしました。それぞれ違う世界で活躍していますが、こうして一同に会しています。ビセンテはギター製作の世界、ハビエルは執筆者としての世界、リカルドは写真の世界、そして私は音楽の世界。分野は違っても、それぞれの思いは同じです。その分野を極めようとする探求心、常に新しくわき起こる疑問とその答えを見つけようと奮闘する日々。


写真:製作中の新しい2艇のフラメンコギター

写真の2艇の製作中のギターは、ビセンテ・カリージョのフラメンコギターです。これも、私のために特別に製作してくれているフラメンコ演奏用のギターです。あと3週間後にはこのギターも完成し、近々フラメンコのコンサートで初演奏する予定。今からとても楽しみです。今は、今日新しく手にしたハイブリッドギターをじっくり味わいます。



写真:ビセンテ・カリージョに私の好みを説明中

この新しい2艇のフラメンコギターを製作してもらうに当たって、これまでにビセンテとはかなり長い時間をかけて話し合ってきました。私の演奏方法に一番適したギターを作る

と言う、かなり難しい注文に、ビセンテは辛抱強く色々試行錯誤を重ねてきました。私の好みをうまく言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、これも大事なプロセスの1つです。このコミュニケーションの質の高さがそのままギターの質の高さに繋がっていくからです。


写真:ビセンテ・カリージョと、未来のフラメンコギターと共に

まだ、あちこち足りないところがありますが、これが正面から見たギターの現在の姿。まだまだビセンテの仕事は山のように残っていますが、全ての行程で、きっと最良の技を見せてくれると信じています。既に、この新しいギターでのコンサートやレコーディングのアイデアが、私の頭に次々に浮かんできます。


写真:キンタナル・デル・レイの街角で

今日のブログの最後は、工房の隣町、キンタナル・デル・レイの街角でのこの1枚。この小さな町で、アームストロングの足跡に出会うとは!彼は月に行ったんじゃなかったっけ?

この『足跡』を見つけて皆で大笑い。「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類に撮っては偉大な飛躍である」というニール・アームストロングの言葉を真似て、記念撮影。月面に足を踏み下ろした時にいた言葉だが、もしかするとキンタナル・デル・レイに足を踏み入れた時だったのかも。。。